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第248話 新しい部屋

作者: 甘梨鈴
last update 公開日: 2026-06-20 17:00:36

 見た目の美しさはミシェルに敵わないけど、ルシアンの心を掴むことはできたのだ。

「エマヌエーレ様」

「は、はいっ」

「ルシアンを番に選んでくださって、ありがとうございます」

「ぇ……?」

 エマは驚いて顔を上げる。

 どうして、もう番になったと知っているのだろう。

 首をかしげると、ミシェルが唇をほころばせる。内緒話をするように口元に片手をあて、エマにそっと囁いた。

「匂いで分かります。あの子から、エマヌエーレ様の芳しい香りがしますもの」

「っ、そ、そうなのですか?」

「ご安心下さい。香りに敏感なのは、レヴィネージュの家系ゆえ。他の方には分かりませんから」

 ミシェルの説明にホッと胸をなで下ろす。

「エマヌエーレ様。どうか、ルシアンと仲良くしてあげてくださいね」

「はいっ。あ、あの、私のことは、どうぞエマとお呼び下さいっ」

「まあ。
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     見た目の美しさはミシェルに敵わないけど、ルシアンの心を掴むことはできたのだ。 「エマヌエーレ様」 「は、はいっ」 「ルシアンを番に選んでくださって、ありがとうございます」 「ぇ……?」  エマは驚いて顔を上げる。  どうして、もう番になったと知っているのだろう。  首をかしげると、ミシェルが唇をほころばせる。内緒話をするように口元に片手をあて、エマにそっと囁いた。 「匂いで分かります。あの子から、エマヌエーレ様の芳しい香りがしますもの」 「っ、そ、そうなのですか?」 「ご安心下さい。香りに敏感なのは、レヴィネージュの家系ゆえ。他の方には分かりませんから」  ミシェルの説明にホッと胸をなで下ろす。 「エマヌエーレ様。どうか、ルシアンと仲良くしてあげてくださいね」 「はいっ。あ、あの、私のことは、どうぞエマとお呼び下さいっ」 「まあ。よろしいのですか?」 「もちろんですっ。ミシェル様にも、仲良くしていただけたら嬉しいです」  エマはドキドキしながら、ミシェルを見つめた。  これから同じ屋敷で暮らすのだ。  それに、エマは本心から、この綺麗な人と仲良くなりたいと思った。  その想いが伝わったのか、ミシェルがにっこり笑った。 「こちらこそ。よろしくお願いします。エマ様」 「はいっ!」  エマが頷くと、ルシアンがそっと腰を抱いてくる。 「ミシェル。エマを出迎えてくれてありがとう」 「可愛い息子が、やっとお嫁さんを連れてくるんだもの。当然でしょう」  ミシェルが小さく笑いながら答える。  その隣で、大公がミシェルの肩を抱いて、ニヤリと笑った。 「俺のミシェルより美しい者はないと思っていたが、お前もなかなかやるな」 「何の自慢ですか。それに、エマはこの世の誰よりも魅力的です。美しさと可憐さを兼ね備えた、私の唯一の薔薇ですから」 「ほう、薔薇に例えるか。それなら俺のミシェルは……

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     玄関前には使用人が一列に並んでおり、一斉に頭を垂れる。年配の執事を先頭に、侍女やメイド、下男に庭師の姿などが見える。  ルシアンが先に馬車から降り、次にエマの手を取って支えた。  エスコートされながら、ゆっくり降り立つ。  今日のエマは、外出用の法衣に薄手の外套を纏っただけの、簡素な装いだ。  しかし、金の髪は艶やかに光り、黄水晶の瞳は輝いている。 「ここが、ルシアン様のお屋敷なのですね」 「今日から、貴方の住む屋敷ですよ」  ルシアンが優しい声で答えた。  彼はいつものように、銀色の長い髪を一つに結び、藍色の薄い上着を羽織っていた。中は淡い生成りのシャツ一枚で、初夏らしい軽やかな服装だ。  ルシアンは、自分の家に帰ってきたからか、気楽な様子が見える。  そこへ、白髪交じりの執事が、にこにこしながら声を掛けてきた。 「お帰りなさいませ。旦那様。ようこそいらっしゃいました。奥様」  丁寧に頭を下げて、領主の帰還と、新たな主人を歓迎する。 「ご苦労。今日からこの屋敷に住む、私の妻だ。エマを迎える支度は整っているか?」 「はい。すでに部屋を整えておりますが、奥様の好みもおありでしょうから、最低限に留めました。今後は、奥様のご意見を伺いたく存じます」  どうやら、すでにエマのための部屋を用意してくれているらしい。 (一ヶ月しかなかったのに……すごいなぁ)  引っ越しの準備でさえ慌ただしかったのに、迎え入れる側のお屋敷の人たちはもっと大変だっただろう。  執事に礼を言おうと思った、そのとき。  使用人たちの列が、静かに左右に分かれた。  屋敷の正面玄関、その奥から一人の男性が姿を見せる。 「ルシアン、帰ったか!」 「っ、父上!」  ルシアンが驚いた声を上げる。  漆黒の髪に、深紅の瞳。精悍な顔つきに引き締まった体を持つ、壮年の男性。 (うわぁ……皇太子殿下に似てる!)  ひと目で、ソルティアン大公だと分

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    「奥方様が、このように美しい方だったとは!」 「閣下に釣り合う女性などいないと思ってましたが、さすが聖樹様ですっ!」 「おい、ジュリアン。お前、なんでもっと早く教えてくれなかったんだ!」 「俺は話したぞ!? 天使のような御方だって!」 「こら、お前達! 静かにしないか! 奥方様の耳に入ったらどうする!」  隊長格の騎士が諫めるが、興奮はおさまらないようだ。  馬車の中にいても、騒ぐ様子が聞こえてきて、エマはちょっと恥ずかしかった。 「ルシアン様。皆さん、僕のことを美化しすぎではないでしょうか?」 「そんなことはありませんよ。貴方が美しいのは本当のことです」 「でも、ルシアン様の方が美しいですっ」  エマはルシアンを見上げて、真面目に返した。 「ルシアン様の銀色の髪も、宝石みたいな瞳も、見惚れてしまいます」 「エマは本当に、可愛いことばかり言うのですね」  ルシアンは目を細めて、エマの唇にキスを落とす。 「んっ、ルシアン様」 「早く、屋敷について欲しいです。貴方が欲しくてたまらない」 「もうっ……デイモンド領までは、馬車で十日は掛かるのでしょう?」 「ええ。長旅になりますが、皇都よりはずっと近いので、辛抱していただけると助かります」 「もちろんです。ルシアン様と一緒の馬車旅は、初めてですね!」  エマはワクワクしながら、ルシアンを見上げる。  前は、エマの体調が悪く、馬車の中ではずっと寝ていた。そのため、今回はルシアンと初めての旅行気分なのだ。 「僕、外国に行くのは初めてなんです。ランダリエでも、アレシオン伯爵領やアズレーヌの街くらいしか行ったことがなくて。外の景色が新鮮で、楽しいですっ」 「気になるところがあれば、立ち寄ることもできますから。遠慮なく仰ってください」 「はいっ」  エマは頷いて、ルシアンに寄りかかる。  馬車の中は、二人きりだ。  ルシアンがエマの腰を抱き、優しい眼差しを向けてく

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     エマの返事を受け、王太子はルシアンに問いかける。 「デイモンド伯。これよりそなたは、エマヌエーレを唯一のオメガとして番を結ぶ。この先、オメガを含む他の女性にも、反応することはなくなるだろう。構わぬか?」 「女性にも、反応を示さなくなるのですか?」  ルシアンは驚いたように目を見張る。  一般的に、アルファはいくらでも番を持てるし、アルファやベータの女性とも子を設けることができる。  王太子は神妙な顔で頷き、ルシアンに説明した。 「この番の儀式は、お互いを唯一とするものだ。帝国民であっても、効果は変わらぬだろう」 「……王太子殿下は、そうなのですか?」 「うむ。私はアウレア以外の者には、関心がなくなった。欲しいと望むのは、己の番だけだ」  きっぱりと答える王太子に、ルシアンが頷く。  その表情は、晴れやかだった。 「ならば、問題ありません。私が欲しいのは、エマだけですから」  ルシアンの甘い眼差しが、エマに注がれる。 (ルシアン様っ! 本当に、僕だけを望んでくださるんだ)  嬉しくて、またうるうるしてしまう。  王太子は穏やかな顔で、小箱の蓋を開けた。中身が見えるように、エマたちの前に差し出す。  柔らかな絹のうえに、小さな丸い珠が一つ入っていた。  乳白色だが、パールのような光沢があり、うっすらと金に染まっている。 「っ……これは」  ルシアンが驚いた顔で、珠を見つめた。  そして、エマを振り向く。 「この珠は、貴方のものですね?」 「はい……私の、聖樹の実です」  エマは頬を染めて頷いた。  聖樹の実……それは、聖樹と番になる者しか知ることのできない、特別な実だった。  厳重に管理され、番の儀式のときに、アルファへ差し出される。  二センチほどの大きさの実は、一見すると固そうにみえるが、口に含めば柔らかく溶ける。 「デイモンド伯。聖樹の実を食すことで、そなたはエマヌエーレの番となる

  • 神殿育ちの嫌われΩは、隣国の伯爵αに蕩ける愛を刻まれる   第15話 挨拶

     エマは右手で胸元を押さえ、頬を赤く染めて、涙を浮かべていた。  初心な反応に、高揚感を覚える。  ルシアンは薄く唇を開き、舌でぺろりと甲を撫でた。 「ひぁぁんっ」  ビクンッとエマの体が震え、慌てて口を覆い隠す。  エマの甘い声に、笑みが浮かぶ。  ルシアンはさらに、手の甲から指先へと、舌でペロッと軽く舐めていく。 「ひゃんッ! ぁ……だ、ダメですっ」 「エマ。どうか、ルシアンと」 「んぁぁっ……ァッ、る、ルシアン

    last update最終更新日 : 2026-03-18
  • 神殿育ちの嫌われΩは、隣国の伯爵αに蕩ける愛を刻まれる   第5話 屈辱

    「物欲しそうにヒクついて、下品な液を滴らせています。レオナール様に抱いて頂けると、勘違いしているのではないでしょうか」  嘲るような従者の言葉に、エマの肩が跳ねる。  侮蔑的な目で股間をジロジロと眺められ、言葉で貶され、エマは自尊心は深く傷ついていた。  けれど、快楽の熱に苦しむエマには、なすすべがない。 「ぁんッ……ぅぅッ」  襲ってくる疼きに、エマは自らの雄を高めようとした。しかし、嘲りの言葉をぶつける男達の前で、これ以上の醜態は晒したくない。  伸ばそうとした手を、グッと握り締める。 「はぁッ……はぁ、はぁぁっ」 「どうした? イきたいんじゃないのか?」  エマの様子

    last update最終更新日 : 2026-03-17
  • 神殿育ちの嫌われΩは、隣国の伯爵αに蕩ける愛を刻まれる   第7話 涙

    「オメガの発情を煽る香を焚き、ペニスを戒めて射精をコントロールするのです。そうすれば、レオナール様に服従します」 「それも面白そうだが……このような下品なメス犬を飼ったところで、オレに利はあるのか?」 「もちろんです。レオナール様」  従者が醜悪な笑みを浮かべながら答えた。 「特別なお客様へを招き、見世物として披露なされば良いのです」 「おお! それはいい!」  レオナールの顔が輝いた。  上機嫌な顔で杯を煽り、ニヤニヤと笑う。

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    「おい、ルシアン。その不機嫌な面(つら)をどうにかしろ」  向かいに座る男が、呆れた口調でルシアンを咎めた。  ルシアンは馬車の物見窓から、向かいの男に視線を移動させる。  目の前に座っているのは、ルシアンと同い年の若い男だ。  漆黒の髪に深紅の瞳を持ち、端麗な顔立ちに均整の取れたしなやかな体は、帝国中の令嬢達の憧れの的だ。  しかしルシアンは、長い付き合いである彼の容姿には一切興味がなく、彼の身分すら頓着しない。 「ティエリー。帝都を出てもう二

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